ざわめく校内をすり抜け、校外に向かう。
11月とはいえ午後4時前。まだ陽は高く、ユニフォーム姿の生徒たちがスイスイ私を抜かして外に飛び出していった。
彼らの日常はまだまだこれから始まるのだろう。厳しい練習の後にも友人との交流が待っているに違いない。
でも、私の時間はもう終わり。
あとは家に帰って、くだらないテレビを観て、ご飯を食べて。決まりきった生活の他、もう何もない。
制服とユニフォームの違いに生きる空間の差までも感じ、私はため息を漏らした。
そしてうつむいたまま上履きを脱いで靴箱にしまおうとした時、外から差す光を影が遮った。
「あ」
あの転校生。学校指定ではない茶色のバックを背負ってこちらを見ている。
そういえばいたなぁこんなヤツ、と数週間前の記憶を思い返す。
テスト期間中は席が出席番号順になるため、隣の席に座ったはずの彼とはあれ以後全く交流はなかった。
いつの間にかクラスになじんでいたし、そこそこ友達もできたみたいなので、既に新入り気質は取り払われたように思えた。
しかしこうして見るとまだ見慣れない、あの明るいくせ毛。逆光の力を借りて更に明るく輝いている。
「坂城サン、だよね」
意外や意外。名前を覚えられていたのか。
少し、ドキリとした。黙って頷く。
「おれ、この間転校してきた、菊池。あのさ、テニス部の部室ってどこかわかる?おれまだ慣れてなくてわかんないんだ」
ああ、と相槌をうつ。
やっぱね、ペンを拾ってあげたぐらいのクラスメイトにそう易々話しかけるわけないか。
そうせざるを得ない理由があるわけね。
「そこ出て、体育館の前にあるクラブハウスの2階左から4番目が男子テニス部」
「そっか、さんきゅー」
たたたっと早足で私の前を通り過ぎる。見送ろうとした瞬間、彼がこちらを振り向き直してまたドキリとする。
・・・なんかおかしくないか、私。
「あのさ、怒ってる?」
「・・・は?」
思ってもみない質問に、少し間をあけて問い直した。
「べ、別に怒ってないケド」
「そう?じゃあもっと笑った方がいいよ。普通の顔だとちょっと不機嫌に見えるからさ」
んじゃ、と今度こそ彼の姿は光に消えていった。
な な な
なんだアイツ!
よく思い返して。かなり失礼じゃないの、あれって!
親切に教えてあげた人間に対して「怒ってる?」?
その上「不機嫌に見える」・・・って!
顔のことにまで言及するなんて失礼極まりない!
全くもって、とんでもないヤツ!!
・・・それが彼とのファーストインプレッション。
感想、最悪。
でも帰り道も家に帰ってからも、そのことばっかり考えてた私がいる。
本当におかしい。何かが違う。
私の日常の歯車が狂い始めた瞬間だった。
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